FIFAの“3クラブルール”とは?
レレが名古屋で出場できない理由とFIFA規則の落とし穴
2025年夏、名古屋グランパスに加入したブラジル人FWレレ(本名:レアンデルソン・ダ・シルバ・ジェネシオ)が、まさかの「出場できない」状況に――。
背景にあるのは、FIFAが定める**“3クラブルール”。この規則が、Jリーグと海外をまたぐ移籍の現場で、いかに大きな影響を及ぼすのか。
本記事では、レレの事例を通して、FIFAの規則とJクラブが直面する制度の落とし穴**を紐解く。
原因は「RSTP第5条第4項」──FIFAが定める移籍制限規定
名古屋グランパスは2025年7月9日、FIFAの「選手の地位及び移籍に関する規則(Regulations on the Status and Transfer of Players:RSTP)」第5条第4項に抵触するため、レレがJリーグの公式戦に出場できないと発表した。
この規則では以下のように定められている:
「選手は1シーズンに最大3クラブに登録できるが、公式戦に出場できるのはそのうち2クラブまで」
名古屋によると、ブラジルサッカー連盟は、レレがフルミネンセ在籍時に出場した州選手権(カンピオナート・カリオカ)はFIFAの規定上の“公式戦”には当たらないと説明していた。
しかし、FIFAに確認を取ったところ「州選手権も公式戦に該当する」との明確な返答があり、すでにフルミネンセとセアラーSCの2クラブで出場していたレレは、名古屋では出場資格を失うこととなった。
登録はされたが「出られない助っ人」
この判断を受け、名古屋は6月18日に予定していた入団会見を急きょ延期。形式上は名古屋に“登録された”ものの、公式戦に出られない外国籍選手という極めて異例の状況が生まれた。
初の海外挑戦に向けて来日したレレにとっても、Jリーグでの実戦機会が失われることは大きな痛手となる。
レレ移籍の背景にある「レンタル移籍」の基本構造
今回のような**期限付き移籍(レンタル)**においては、一般的にクラブ間で以下のような費用負担が発生する:
- レンタル料(=移籍元クラブに支払う一時的な使用料)
- 選手の年俸全額または一部の負担
Jリーグにおける外国籍選手のレンタル移籍では、レンタル料はおおよそ1,000万~3,000万円程度が相場とされており、加えて選手の年俸を全額または大部分クラブ側が負担するのが基本だ。
今回のレレもこのスキームに沿った契約である可能性が高く、仮に試合に出場できないままシーズンを終える場合、クラブにとっては大きな金銭的な損失になるだろう。
代理人はブラジル国内で影響力のある事務所
レレの代理人を務めるのは、Marcio Bittencourt Sports。
同事務所は、ボタフォゴやフラメンゴなどブラジル1部のクラブに多数の選手を送り込んでおり、国内では一定の影響力を持つ代理人事務所として知られている。
日本でも、清水エスパルスのカピシャーバ、ジェフユナイテッド千葉のデリキといった選手をマネジメントしており、すでにJリーグとの接点も深い。
今回の件に対する事務所の説明や今後の対応にも、注目が集まる。
RSTPの規則が適用されない?海外からJリーグへの移籍に潜む盲点

今回のような“出場できない”登録問題は、過去にも例がある。
2016年、セレッソ大阪に所属していたベサルト・アブドゥラヒミは、KSCロケレン(ベルギー)、FCアスタナ(カザフスタン)、セレッソ大阪の3クラブで公式戦に出場したが、これは問題にならなかった。
なぜなら、ベルギーリーグが**「2015-16」「2016-17」といった年を跨ぐシーズン制**を採用していたため、FIFAの定める「同一シーズン」の範囲が分かれていたからである。
一方、ブラジルや日本は1月~12月を1期とする単年制。この違いが、「3クラブ目で出場不可」というルールの適用可否に直結する。
RSTPは一見シンプルだが、“シーズンの定義”が国ごとに異なることにより、見落とされがちなリスクを生む。
強化部門の責任とは──過去のJクラブの事例に学ぶ
Jクラブが移籍における規則を誤って適用したことで問題化した例は他にもある。
2024年、サンフレッチェ広島はACL2で出場停止中の選手を起用し、試合が没収。クラブは謝罪し、雨野裕介強化本部長が引責辞任する結果となった。
こうした事態は、国際大会やグローバルな移籍市場において、規定理解と管理体制の整備がいかに重要かを示している。
名古屋グランパスでは、今回の編成責任者は山口素弘ゼネラルマネージャー(GM)と古矢武士強化部長。
移籍戦略の中核を担う両名の下、どのような内部体制や事前確認が行われていたかは、今後の対応にも影響を与えるだろう。
制度と実務の齟齬をどう埋めるか
今回のレレの件は、FIFA規則と各国の大会制度のズレ、そしてその解釈の難しさを如実に示した。
文面の読み取りだけでなく、FIFAへの事前照会や、代理人・選手との緊密な情報共有体制の構築が不可欠だ。
移籍市場は年々グローバル化が進み、Jクラブも「制度理解」だけでなく「実務としてのリスク管理力」が問われる時代になっている。
名古屋グランパスの一件は、その現実を改めて突きつけたケースと言える。