FC岐阜と仮契約のウィリアム・トギ、移籍先はルワンダのAPR FCへ

仮契約の有効性と代理人の関与をめぐる注目のケース
2025年7月7日、ルワンダの強豪クラブAPR FC Kigaliが、元コートジボワール代表FWウィリアム・トギ(William Togui)との契約締結を公式に発表した。この発表を受け、日本のJ3クラブ・FC岐阜との“契約問題”に再び注目が集まっている。
契約満了からFC岐阜との仮契約まで
ウィリアム・トギは、2025年1月27日をもってトルコのアンカラ・ケチョレンギュジュSKとの契約を満了。その後しばらく移籍先が決まらない状態が続いていたが、FC岐阜は4月20日に同選手と仮契約を締結。選手本人からも加入の意思が記された公式コメントがクラブに届いていたとされている。
岐阜側は、在留資格の申請やJリーグへの登録手続きといった日本でプレーするための準備を進め、あとは正式契約の署名を残すのみという段階だった。しかし、その後トギ側と突然連絡が取れなくなり、進展が止まっていた。
APR FCとの契約、そしてJリーグ登録ウィンドーの背景
そんな中、7月7日にルワンダのAPR FCがトギの加入を公式にアナウンス。すでにチームに合流しているとみられている。なお、Jリーグの2025年の第1登録期間(ウィンドー)は1月20日〜3月26日。だが、トギは1月27日に契約満了を迎えた“フリー”の選手であったため、日本では登録ウィンドー外での選手登録が可能な状態にあった。
選手代理人はWasserman、クラブ代理人の存在は不透明
ウィリアム・トギの選手代理人は、米国を拠点とする業界最大手「Wasserman」。
FIFA公認エージェントのライセンス制度のもと、こうした国際移籍では、選手側代理人とクラブ側が依頼する「クラブ代理人」が交渉窓口になることが一般的だ。
しかし今回、FC岐阜がクラブ代理人を通じて交渉を進めていたかどうかは明らかになっていない。ブラジル選手などでは、クラブがあらかじめ指名した代理人を使って交渉を進めることも多いが、アフリカ出身の選手においては、その限りではない。
FC岐阜の強化担当
FC岐阜の補強戦略を統括しているのは、スポーツダイレクターの竹元義幸氏だ。
かつてサガン鳥栖でアカデミー統括などを歴任した人物で、2024年シーズンから岐阜に加わった。
経験豊富な編成責任者として、クラブの戦力強化を牽引している。
問題の焦点は「仮契約の有効性」
今回の事案の核心は、FC岐阜との「仮契約」がどの程度の法的効力を持つのか、という点にある。日本のクラブでは、選手と早期に“仮契約”を交わす文化が根付いており、特に大学生などの新卒加入時には「〇〇選手と来季加入内定」としてリリースされることが一般的だ。こうした場合、実際には仮契約の段階であることが多い。
一方で、欧州をはじめとする多くの国々では「仮契約」という概念そのものが希薄であり、選手側が「署名のない状態=契約は成立していない」と主張するケースも珍しくない。
FIFA裁定の行方は?日本的慣習は通用するのか
FC岐阜は現在も代理人側と確認を続けているとしているが、今後この事案はFIFAの裁定に委ねられる可能性が高い。もっとも、日本独自の「仮契約」慣習が、FIFAの場でどこまで認められるかは不透明だ。
筆者としては、FIFAが日本のローカルな契約文化に対して強い拘束力を持たせる可能性は低いと考えている。トギ側が「正式契約に至っていない」と主張する限り、岐阜にとってこの契約トラブルは非常に不利な状況といえるだろう。
おわりに
国際移籍の交渉において、「仮契約」とは何か、どこまで法的拘束力を持つのか——今回のウィリアム・トギのケースは、その問いをあらためて突きつけるものとなった。Jクラブにとっても、今後の海外選手との契約プロセスを見直すきっかけとなるかもしれない。